カレンダー撮影記:ボツワナ 第12話
第12話:あの日があの日のままに。あの目があの目のままに。
リカオンがラーテルを遊び半分で追い駆け回している。遊びと言いながらも、ここから狩りの仕方を学んでいる。耳の大きさからも分かるように、リカオンの聴覚はすさまじく発達している。車の中でものを落としただけでも反応し、耳がレーダーのようにその方向を向く。
野生動物の感覚の鋭さには何度も驚かされたが、実は、アフリカで撮影をしていると自分の感覚が呼び戻されていくのにも驚く。まず目がよくなる。感覚も相まって10kmぐらい先まで見えるようになる。遠くの茂みに隠れている動物も見つけ出せるようになる。風が運んでくる様々な情報や気配にも敏感になる。五感だけではなく意識にも変化が現れる。待つという感覚が消えていく。決定的な瞬間を撮るために何時間もじっとカメラを構えてなくてはいけないケースが数多くあるが、一切苦にならなくなる。アフリカが僕のすべてを変える。
1993年、1994年に続き今回が僕にとって3度目のボツワナ撮影取材。実は前回から20年以上の時が経っているので野生動物の多様性が失われているのではないかと心配していたのだが杞憂だった。アフリカの他の地域では生物の単一化が思いがけないほど進んでいる。だが、ボツワナは以前見た姿のままだった。ここはまずヒトの数が少ない。それが変化の少なさの決定的な理由だろう。自然とヒトの境界が近ければ近いほど変化は激しくなってしまう。さらにボツワナの北部の湿原の存在が生命の多様性に深く関わっていると改めて感じた。水辺で様々な植物が芽吹き、多様性のバロメーターである多くの草食動物を育む。そこに肉食動物も集まってくる。こうした美しい循環が正常に機能しているからこそ、すべての生き物が平等に存在していくことが可能となる。
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