カレンダー撮影記:パンタナール 第9話
第9話:野生のバクに初めて出会った。ドキュメンタリー番組のような光景だった。
朝早く、ボートに乗って野生動物を探していたときのこと。ガイドが川岸の砂地にバクの足跡を発見した。まだ新しい足跡だという。僕は胸が高鳴った。野生のバクを見たことは、これまで一度もない。今日、初めて、バクの撮影ができるかもしれない。
しばらくすると、水草の陰から何かが出てきた。「バクか?!」と急いでカメラを向けると、残念ながらカピバラだった。ぜひともバクに会いたい僕は、この場に粘ることにした。だが、1時間経っても2時間経っても、バクは姿を現さない。もう、どこか遠くに行ってしまったのか。半ばあきらめかけながら、朝のお弁当を食べることにした。前方を眺めていると150mほど先の茂みが揺れ、動物の頭が見えた。「どうせまたカピバラだろう」と期待を押し殺したら、なんと、待ちに待ったアメリカバクだった!
一頭が川に現れると、続いてもう一頭が現れた。オスとメスのペアだ。二頭はじゃれあうように仲睦まじく水草を食べている。こちらには気づいていない様子だ。初めて野生のバクを目の前にしているのに、僕は何だか野生動物のドキュメンタリー番組を見ているような気がした。
そのうちバクは静かにこちらに近づいてきた。しばらくすると、鼻をスッと上に向けた。僕はこの瞬間、「あ、バクが僕たちに気づいたな」と思った。バクはすぐ引き返すのではなく、ゆーっくりと旋回して行った。急な反応を見せないのが、大型野生動物らしい。
バクは夜行性の動物なので、朝の光で撮影できるのは珍しい。彼らはきっと、これから森に帰って寝ることだろう。それにしても今回のバクといい、先日のジャガーのときといい、なぜお弁当を食べているときに現れるのか。野生動物は気配を敏感に感じとる。「出てこい、出てこい」とこちらが凝視しているときは、張りつめた緊張感が伝わって彼らは警戒し、こちらが力を抜いているときには、彼らも緊張感がゆるんで現れるのではないだろうか。
パンタナール編 一覧
野生動物 一覧
- Botswana「アフリカ屈指の野生の楽園 - ボツワナ」
- 「Wisdom of the Wild / 時の鼓動。生命の躍動。」(パンタナール)
- Pantanal「生命みなぎる大湿原 - パンタナール」
- Galapagos Islands「絶海に生きる - ガラパゴス諸島」
- Madagascar「原猿の棲む島 - マダガスカル」
- Ngorongoro「いのち育むカルデラ - タンザニア・ンゴロンゴロ」
- The Peninsula and the Island「世界自然遺産 - 知床と屋久島」
- Land of the Brave「気高き者たち - ナミビアの野生」
- Splendor in North America「雄大なる輝き - 北米大陸」