僕の中に、“パンタナール”という場所がインプットされたのは、1986年にさかのぼる。アフリカ・セレンゲティ国立公園に1年半滞在して撮影した写真が『ナショナル ジオグラフィック』誌の表紙を飾ることになったとき、編集者に「次は何を撮るんだ?」と聞かれた。僕がオーストラリアと答えると、彼は「オーストラリアより、もっと興奮するところがあるよ。南米のパンタナールだ」と言うのだ。そのとき僕は、パンタナールを知らなかった。そこはジャガーが撮れるのかと尋ねると、「撮れるとも!」という返事。 それ以来、“パンタナール”という響きが僕の心を捉え続けたが、なかなか訪れる機会には巡りあえなかった。
パンタナールは南米大陸のほぼ中央に広がる、世界最大級の大湿原だ。ブラジルからボリビア、パラグアイにまたがり、その広さはおおよそ日本の本州に匹敵する。10月頃から半年間ほどは雨季で、川が氾濫して多くの土地がどっぷりと水に浸かってしまう。5月頃になると乾季を迎えて水が引き、ところどころ川や池に水を残す以外は、草原へと姿を変える。そして、この世界でも希有な大湿原は、多彩な野生動物の生息地としても世界屈指であり、ジャガーをはじめ、オオカワウソ、パラグアイカイマン、カピバラ、アメリカバク、オオアリクイなど、多種多様な動物たちがいる。